本やら美術やら舞台やらが好きな人が、ひたすらに好きなものへの愛を叫んだり叫ばなかったりするブログです。読書歴は(http://booklog.jp/users/naneko)

辛くなった時に読む本 :『カイルの森』

「この本に救われた」と言うと、大げさに聞こえるかもしれない。

確かに「救われた」とまでは言えないだろう。

きっと本に出会えていなかったとしても私は生きていただろうし、なんとかかんとか頑張っていたはず(だと思いたい)。

だが、『カイルの森』が私の思考と、そして生き方に与えた影響は計り知れない。

 

 

カイルの森 (角川文庫)

カイルの森 (角川文庫)

 

 

これは、詩人として有名な銀色夏生さんの小説だ。

小説と言うのか憚られるほど、全編があまりにも詩的で美しい。さらには、どことなく戯曲のような雰囲気もある作品だと、私は思う。

 

 

主人公は「水色と灰色と若草色がまざったような気配をもつ、美しい星」に住む園芸家のカイル。愉快な妖精たちや、魔術師と共に暮らしている。自分の星の王子様だけだなく、隣の星の「たまご王子」にも慕われる人気者だ。

カイルの住む「第七星」では、前王が設置した「ダスト・シューター」が各家にある。これは、「ケンカしてもひとりごとでもなんでも悪い言葉や考え」を捨てるもので、悪意はここに捨てることが法律で定められている。悪い言葉が聞こえてこない星は、一見とっても平和だった。

だが、ある時、星の森の奥から、黒い化け物のような何かが出てくる。戦おうとする星の人たちを前に、カイルは葛藤する。

 

 

と、ざっとこんな感じのお話。

正直なところ、この本のあらすじだけを聞いて惹かれる大人は稀だとも思う。

けれども、作中に散りばめられた言葉たちが、とにかく素敵だということに注目してほしい。

 

願い事は、未来の自分にするんだよ。

 

カイルはいつだって、私が誰かに言ってもらいたいこと、叱ってほしいことを言ってくれる。

誰かに頼るのではなくて、自分で自分を信じて、周りの人を信じて、切り開いていくしかないんだなと思わせてくれる存在である。

 

読み進めながら、鮮やかな緑の森が、艶やかな花の色が、きらきらの木漏れ日が、目の奥に浮かんでくるところもすごいところだ。

表紙が真っ白なのは、そういった心の中の風景を邪魔しないためなのではなかろうか。

 

 

あー最近うまくいかないなー疲れたなーやだなーつらいなーっていう時、ぜひ手にとってほしい。

ちょっと見方を変えてみれば、立ち向かわなくてはならないと思っていたものは、敵ではないのかもしれない。

 

「怖いものを見ても、その表面ばかりに気をとられてはダメだよ。本当はちっとも怖いことなんかないんだ。怖いものって、怖がると、いっそう怖くなっちゃうんだよ」

 

カイルはこうも言う。

「悲しみの中にも喜びの種があって、喜びの中にも悲しみの種があるんだ。どんなものも両方の要素をもってる。どちらも感じられるようにならないとね。それができるようになると、悲しみにとらわれすぎたり、喜びにおぼれたりすることがなくなって、こころが安らかになるよ」

 

怖いものを怖がりすぎてはいけない。悲しみにおぼれては勿体無い。

 

「悲しむことはしょうがないけど、悲しみすぎるのはよくないよ。(…)

ずっと悲しみの中に生きているような人は」

「そういう人は、優しい人なの?」

「違う。弱い人だよ。自分がなくて寄っかかってるんだ、そっちに。悲しむことで見たくないものを見ないふりしてる。」

 

毎日嫌なことも大変なこともあって、辛くなっちゃう時はあるけれど。頑張ろ。