本と美術館

『スレーテッド』が今読むべきディストピア小説だという主張

 今、ディストピア小説が "きている"。

2017年のいま「ディストピア小説」の人気が再燃している理由|WIRED.jp

 

WIREDでも紹介されているように、トランプ氏の大統領就任以降、オーウェルの『一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)』やハクスリーの『すばらしい新世界〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)』が「飛ぶように」売れているという。

 

確かに、この2作は秀逸すぎるほどに秀逸なディストピア小説だ。

特にオーウェルの『1984年』は、新たな言語を書籍の中で生み出すという気の遠くなるような偉業をやってのけている。言語学好きとしても感動するしかない作品だ。

(だが正直なところ、この新言語についての長い記述のあたりで脱落する人が多いように思う。あまり読まなくても本筋の理解には差し障らないので、無理せず読み飛ばしてぜひ最後まで読んでほしいと思う。)

 

ごくごく簡単に言うならば、『1984年』は、監視社会+言葉を"奪う"ことによる思考統制を、『すばらしい新世界』は、完全に管理された人間の育成を通じた統制が描かれている。

他の言い方もあることは重々承知しているが、この文で言いたいことはここではないので読み飛ばしてもらえると嬉しい。

 

 

この超名作の二作を抑え、私的ぜひぜひ読んでほしいディストピア小説ランキング1位になった作品が『スレーテッド』だ。

 

スレーテッド 消された記憶 (祥伝社文庫)

スレーテッド 消された記憶 (祥伝社文庫)

 

  祥伝社文庫から4,5,6月と毎月発刊された全3巻の作品。世界11カ国で出版されている。

だけれども!どうやら、日本での知名度は、あまり高くない!!悲しい!!

 

小説の舞台は2054年のイギリス。

EUを離脱し「超管理社会」に突入しているという設定。

題名にもなっている『スレーテッド』は、「記憶消去矯正措置」のことで、かつて悪いことをした(とされている)人たちが施される。

これをされると、手首にレボという感情を測る機械を装着される。怒ったり悲しんだりといった激しい感情の波が訪れると、レボが音を流し警告を発する。

つまりは、手術とテクノロジーによって人の感情を抑制するのである。

 

主人公のカイラも「スレーテッド」をされた1人。

なのに、他のスレーテッドたちとは少し違う。

その「違い」は、カイラに様々な陰謀や策略、そして社会の闇を見せることになる。

 

 

と書くと、小難しく恐ろしい話のように思えるが、実際はめちゃくちゃ面白い

カイラも、彼女を取り巻く人たちも、(悪役含めて)みんな魅力的。状況の説明が長ったらしくないので、サクサク読めて世界観に没入できる。

ディストピア小説ではあるけれど、1人の少女の成長物語であり、冒険譚なのだ。

 

ただし、読み終わったあとにハッとするはず。

「あれ、これ、ありえるのでは…?」

1984年』も『すばらしい新世界』も、怖いなーやばいなーこうなったらやだなーとは思った(※実際はもう少し真面目に考えました)。でも、心のどこかで「いやいやでもありえないっしょ」があった。

 

でも、『スレーテッド』は、この高度に発展した社会において、とてつもなくありえるのだ。

「犯罪者を完全に更生させられます」と言われたら…もしかしたら私たちは、「スレーテッド」に似たようなことを許容してしまうかもしれない。

私たちは、許容した先には権力による技術の暴走があり、本来の目的からズレた使い方をされてしまう可能性があることを、常に考えながら選択できるのだろうか…?

 

いやもう本当に読んでほしい。

ディストピア小説の入り口にも、むしろ学術書ばかりで小説読まないよっていう人にも、ぴったりだと思うので。